1. はじめに
2026年6月29日に発表された「JC・JK流行語大賞2026上半期」は、単なる若者文化の記録に留まらず、現代日本の消費トレンドや社会心理を映し出す重要な指標として注目されています。
『JC・JK流行語大賞2026上半期』発表
— オリコンニュース (@oricon) June 29, 2026
キーワードは「時間軸が溶けている」
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🔻4部門一覧https://t.co/Edsv58e6Eh
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モナキが「ヒト部門」1位のほか、コトバ部門の5位「ほんまやでなんでやねん知らんけど」にランクイン。M!LKの「ば・く・れ・つ」もコトバ部門の4位にランクインした。 pic.twitter.com/qxfd5iSuAM
全国の女子中高生1,000人が選んだこのランキングは、Z世代やα世代のリアルな感性と価値観を浮き彫りにし、マーケティングや社会動向を分析する上で不可欠な情報源となっています。
2026年上半期を象徴するキーワードとして、「時間軸の消失(リバイバル消費)」と「リアルへの回帰」という二つの大きな潮流が挙げられています。なぜ11年前の動画が突如としてバズり、なぜInstagramのような「映え」を追求するSNSではなく、クローズドなコミュニケーションを重視するアプリが選ばれるのか。これらの現象を通じて、現代の若者たちが何を求め、どのような価値観を共有しているのかを深く洞察します。
2. 【ヒト部門】新時代のアイコンと「理想の形」
ヒト部門のランキングは、Z世代がどのような人物に魅力を感じ、どのような「理想の形」を追い求めているのかを示しています。
1位に輝いた4人組アーティスト「モナキ」は、純烈のリーダーである酒井一圭氏がプロデュースするという異色のルーツを持ちながら、楽曲「ほんまやで☆なんでやねん☆しらんけど」の中毒性の高いフレーズとダンスがTikTokを中心に爆発的に拡散しました。
また、2位の「はるねね」と5位の「つーさんとゆっぴ」といったカップルインフルエンサーの台頭も注目に値します。彼らは恋愛リアリティ番組出身であるか、あるいはYouTubeで日常の飾らない姿を発信することで、同世代の共感を集めています。特に「つーさんとゆっぴ」のように、喧嘩や仲直り、在宅ワークの日常といったリアルな姿を見せるスタイルは、「映え」を重視する従来のSNS文化とは一線を画し、「等身大の魅力」を重視するZ世代の恋愛観を反映していると言えるでしょう。
さらに、3位にランクインしたレジェンドYouTuberのSEIKINさんのリバイバルヒットは、「時間軸の消失」という現象を象徴しています。約11年前の動画での発言「ワホー」がTikTokで再発掘され、JC・JK世代に改めて注目されたことは、過去のコンテンツが新しいプラットフォームを通じて再評価される現代のトレンドを示しています。これは、コンテンツの消費サイクルが短くなる一方で、良質なコンテンツは時代を超えて再発見され、新たな価値を持つことを証明しています。
3. 【モノ部門】五感を刺激する体験とAIの浸透

モノ部門のランキングは、Z世代が製品に求める価値が、単なる機能性や見た目だけでなく、五感を刺激する「体験」へと移行していることを示しています。1位の「Mellojoy」のスクイーズと2位の「ドバイチョコもち」は、この傾向を如実に表しています。Mellojoyのスクイーズは、従来のスポンジ系とは異なる高品質シリコン素材による「超低反発」の触り心地が「もちもち・ぷにぷに」とSNSで話題となり、拡散されました。これは、視覚だけでなく触覚や聴覚といった五感全体で楽しめる製品が、共有体験として価値を持つことを示しています。
「ドバイチョコもち」は、2025年から続くドバイチョコブームを日本流にアレンジしたもので、求肥の「もちもち感」、カダイフの「ザクザク感」、チョコレートの「とろっと感」という三重の食感体験が支持されました。断面のインパクトやカダイフの咀嚼音がASMRコンテンツとしてSNSで拡散されたことは、食体験が単なる味覚だけでなく、音や食感といった要素を通じて「共有可能なコンテンツ」へと昇華していることを示しています。海外トレンドをそのまま受け入れるのではなく、独自の文化や感性で「日本的翻訳」を施すZ世代の創造力を象徴する事例とも言えます。
3位にランクインした韓国発のAIチャットアプリ「zeta」の普及は、Z世代のデジタルライフにAIが本格的に溶け込み始めている現状を浮き彫りにしています。キャラクターとの対話を通じて物語を共創するAIフィクションプラットフォームとして、日本国内のエンタメカテゴリでアプリ総使用時間1位を獲得したことは、AIが単なるツールではなく、新たなエンターテイメントやコミュニケーションの形を提供し、若者たちの創造性や好奇心を刺激していることを示しています。これは、AI技術が日常生活に深く浸透し、新たな文化を形成する可能性を秘めていることを示唆するものです。
さらに、4位のYouTuber・HIKAKINさんプロデュースのペットボトル麦茶ブランド「ONICHA」と、5位のトレンドメイク「クッキーメイク」も注目すべき点です。ONICHAは、クリエイターが手がけるオリジナル商品がZ世代の購買行動に直結する時代を象徴しており、クリエイターへの「信頼」が購買の大きな動機となっていることを示しています。一方、クッキーメイクは、ブラウンやベージュをベースにツヤを抑えた「ふんわりマット」な質感で、焼き菓子のような温かみのある仕上がりを目指すトレンドメイクです。「盛っているのに自然に見える」という点が支持され、プチプラコスメでも再現しやすいことから、SNSメイクの定番となりつつあります。これは、過度な「映え」よりも、自然体でありながらも自分らしさを表現するメイクが好まれる傾向を示していると言えるでしょう。
4. 【コンテンツ部門】「映え疲れ」と「レトロ回帰」

コンテンツ部門のランキングは、Z世代が情報消費において「映え疲れ」を感じ、よりパーソナルでリアルな体験を求める傾向、そして過去のコンテンツを新鮮なものとして再発見する「レトロ回帰」の流れを明確に示しています。
1位に輝いたVlog作成アプリ「setlog(セットログ)」は、この「映え疲れ」に対する若者たちの答えと言えるでしょう。このアプリは、1時間ごとに約2秒の動画を撮影し、1日の終わりに自動でVlogを生成するというユニークな機能を持っています。Instagramのような「映え」を意識した完璧な投稿に疲弊した若者たちは、ノーメイクや部屋着といった飾らない等身大の自分を、最大12名の親しい友人だけに共有できるクローズドなSNSとしてsetlogを支持しています。K-POPアイドルの活用も認知拡大を後押しし、日本のApp Store無料ランキングで1位を獲得するなど、JC・JKの間で「青春のドキュメントツール」として定着しています。これは、オープンな場での自己表現よりも、信頼できる仲間内での共有を重視する、Z世代の新たなコミュニケーションスタイルを象徴しています。
2位の「トモダチコレクション」の復活も、レトロ回帰の典型的な事例です。約13年ぶりの完全新作『トモダチコレクション わくわく生活』が発売され、自分や友達、推しを「Mii」として作り、ゲーム内で繰り広げられる予想外の人間関係を観察する楽しさが、SNSの共有文化と相性抜群でした。シュールな場面を切り取ってTikTokに投稿する遊び方がJC・JKの間で流行し、「懐かしのコンテンツが最新の環境で帰ってきた」という感覚が、若者たちに新鮮な驚きをもたらしています。
3位の「ルッキズム風刺画」は、TikTokを中心に拡散された、ルッキズムを皮肉やメッセージを込めて描いたイラスト・動画コンテンツです。「どれだけ努力しても生まれ持った骨格には勝てない」といった残酷な現実をビジュアル化したものが多く、「リアルすぎる」と深い共感を呼ぶ一方で、若者のメンタルヘルスへの悪影響を懸念する声も上がっています。これは、SNSが若者にもたらす光と影の両面を示しており、社会的な問題意識がコンテンツを通じて表現される現代の傾向を反映しています。
そして、4位のサカナクション「夜の踊り子」の14年ぶりのリバイバルヒットは、コンテンツ部門における「時間軸の消失」を象徴する出来事です。2012年にリリースされたこの楽曲が、インドネシアの伝統的ボートレース「パチュ・ジャルール」の映像に合わせたショート動画が韓国のクリエイターによって投稿されたことをきっかけに、TikTokで爆発的に拡散されました。シュールな映像と疾走感のある楽曲が完璧にマッチしたことでバイラル化し、ボーカルの山口一郎さんが流行をポジティブに受け止め自らダンスを披露したことで、ファン以外の一般層にも広がり、オリコンのストリーミングランキングで1位を獲得する異例の事態となりました。これは、コンテンツが再発見され、新たな価値を生み出す現代のメディア環境を示しています。
5. 【コトバ部門】意味を超えた「音」の流行

コトバ部門のランキングは、言葉が持つ意味だけでなく、その「音」や「響き」、そしてそれが生み出す「共感」が流行の鍵となっていることを示唆しています。
1位の「ワホー」は、約11年前(2014年)にSEIKINさんがYouTube動画内で発したアドリブが元ネタです。この発言がTikTokで再発掘され、そのシュールな語感と中毒性から爆発的に拡散されました。特定の意味を持たない「ワホー」が流行した背景には、「意味不明さ」そのものを楽しむというZ世代の感性があります。教室やSNSで「とりあえず言っておく」掛け声として定着したこの言葉は、過去のコンテンツが時を経てバズる「リバイバル消費」の典型です。
2位の「フレネミー」と3位の「冷笑系」は、複雑化する現代の人間関係を言語化する言葉として注目されました。「フレネミー」は「Friend(友達)」と「Enemy(敵)」を掛け合わせた造語で、表面上は仲良しでありながら陰で嫉妬や足の引っ張り合いをする相手を指します。SNSでの「つながりの深さ」がかえって複雑な人間関係を可視化させ、そのモヤモヤ感を整理する言葉として再発見・再流行しました。一方、「冷笑系」は、他者の真剣な主張や熱意に対して斜に構えて冷ややかに見下す態度を指すネットスラングです。もともとは政治的議論で使われていましたが、JC・JKの間では「熱中している人を見るとつい引いてしまう」といった日常的な距離感の取り方を表す言葉としても浸透しています。これは、SNSにおいて「熱意を出すのはダサい・リスクがある」という冷めた空気感が若年層にも広がりつつあることを示しており、2026年上半期の「冷笑カルチャー」の台頭を象徴する言葉と言えるでしょう。
4位の「ば・く・れ・つ」と5位の「ほんまやでなんでやねん知らんけど」は、楽曲発のフレーズが流行語となった事例です。ボーイズグループ・M!LKの楽曲「爆裂愛してる」のサビのフレーズ「ば・く・れ・つ♡」に合わせた「爆裂ポーズ」は、TikTokやプリクラの定番として大流行しました。また、ヒト部門1位のモナキさんの楽曲タイトルがそのまま流行語となった「ほんまやでなんでやねん知らんけど」は、関西弁のリズミカルなフレーズとダンスが日常会話やSNS投稿に浸透しました。
6. 2026年上半期トレンドの3大特徴
2026年上半期のJC・JK流行語大賞から見えてくるトレンドには、いくつかの明確な特徴があります。これらは、現代の若者文化だけでなく、より広範な社会動向を理解するための重要な手がかりとなります。
① 時間軸の消失(リバイバル消費)
最も顕著な特徴の一つは、「時間軸の消失」とそれに伴う「リバイバル消費」の加速です。SEIKINさんの「ワホー」やサカナクションの「夜の踊り子」、そして「トモダチコレクション」の復活に見られるように、過去のコンテンツが「古いもの」としてではなく、「新しい発見」として消費される現象が頻繁に起こっています。これは、SNSのアルゴリズムが、過去の埋もれた名作や埋もれていた情報を掘り起こし、新たな文脈で提示する力を持っていることに起因します。JC・JK世代にとって、平成や2010年代初頭は「知らない時代」であり、その時代のカルチャーが新鮮でエモいものとして映るのです。リアルタイムで体験した世代とは異なる角度で過去を発見し、それを自分たちの手で再構築して楽しむという、現代的な消費行動が確立されています。
② クローズド・コミュニティへの回帰
次に挙げられる特徴は、「クローズド・コミュニティへの回帰」です。setlogの成功が象徴するように、若者たちは「全世界への発信」よりも「信頼できる仲間内」での共有を重視する傾向を強めています。Instagramに代表される「映え」を追求するオープンなSNSでの疲弊感から、よりパーソナルで飾らない自分を共有できる場を求めているのです。これは、デジタルネイティブ世代が、オンラインでのコミュニケーションにおいて、量よりも質、広さよりも深さを重視するようになったことの表れと言えるでしょう。
③ 海外トレンドの「日本的翻訳」
そして第三の特徴は、「海外トレンドの「日本的翻訳」」です。ドバイチョコブームを「もち」という日本独自の食感でアレンジした「ドバイチョコもち」の成功は、この傾向を示しています。海外で流行したものをそのまま輸入するのではなく、自分たちの文化や感性に合わせて再解釈し、独自の価値を付加する創造力がZ世代には備わっています。これは、単なる模倣ではなく、グローバルなトレンドをローカライズし、新たな魅力を生み出す能力が、現代の若者たちの間で育まれていることを示しています。
7. 2026年下半期はどうなる?
2026年上半期のJC・JK流行語大賞は、デジタルネイティブ世代が「過去」と「AI」と「リアル」を行き来し、それらを融合させることで、ハイブリッドなトレンドを形成していることを示しました。過去のコンテンツが新たな文脈で再評価され、AIがエンターテイメントやコミュニケーションの一部となり、そして「映え」よりも「リアル」や「共感」が重視されるクローズドなコミュニティが発展しています。これらのトレンドは、単なる一過性の流行ではなく、現代社会の価値観の変化を反映した、より深い潮流として捉えることができます。
2026年下半期に向けては、これらの傾向がさらに加速するとともに、新たな要素が加わる可能性も考えられます。例えば、気象庁が発表した「スーパーエルニーニョ」発生の可能性は、夏の猛暑や冬の暖冬といった異常気象を通じて、若者たちのライフスタイルや消費行動に大きな影響を与えるかもしれません。また、AI技術のさらなる進化は、エンターテイメントや教育、コミュニケーションのあり方を一層変革していくでしょう。Z世代の柔軟な感性と創造力が、これらの変化にどのように対応し、どのような新しいトレンドを生み出していくのか、注目していく必要があります。彼らの動向を理解することは、未来の社会や市場を予測する上で不可欠な視点となるでしょう。

